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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)848号 判決

主文

原判決中被上告人に関する部分を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人安達幸衛、同高木善種の上告理由について。

原判決は被上告人国は連合国進駐軍の接収通知により本件建物をその所有者三信建物株式会社より借受けこれを進駐軍の使用に供したが事実上は同軍において右建物を占有支配しその修理工事についてもその要否、時期、資材、方法及び範囲に亘りこれを指揮し、その監督の下になされた事実を認定した上、民法七一七条にいわゆる占有者とは工作物を事実上支配し、その瑕疵を修補しえて損害の発生を防止しうる関係にある者を指すに拘らず、右事実によれば被上告人国は同条にいわゆる右建物の占有者に当らないとし、被上告人国を同条の占有者に当るものとした上告人らの本件損害賠償請求を理由なきものとしてしりぞけたものであることは判文上明らかである。けれども国が連合国占領軍の接収通知に応じ建物をその所有者より借り受けた場合においてはたといこれを同軍の使用に供し同軍が事実上右建物を占有支配している場合においても国は依然としてなお右建物の賃借人であることに変りはなく、従つてまた右建物についても当然に間接占有を有するものと解さなければならない。そして民法七一七条にいわゆる占有者には特に間接占有者を除外すべき注文上の根拠もなくまたこれを首肯せしむべき実質上の理由もないから、国は右建物の設置保存に関する瑕疵に基因する損害については当然に右法条における占有者としてその責に任ずべきものと解するを至当とする。しかるに原判決は、本件建物の保存に関する瑕疵に基因し、上告人らの子細野一雄が死亡した事実を認めながら、被上告人国は本件建物について占有を有しないとして、その他の事実につき判断を示さずして上告人の本訴請求を排斥した原判決は、民法七一七条の法意を誤解しひいて審理不尽、理由不備の違法に陥つたものというのほかなく、論旨は理由があり被上告人国に関する部分は破棄を免れない。

よつてその他の論旨に対する判断を省略し民訴四〇七条により裁判官全員の一致で主文のとおり判法する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三)

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